2016.10.22

間取りが生む「住み続けられる家」


間取り作成のプロとして300件超の建築に携わってきた山口さん。木の家づくりを専門に行う工務店、KJ WORKS阪神支店に伺い、「住み続けられる家」に対するこだわり、そして今後の展望についてお話を聞いてきました。

山口敏広さん
KJ WORKS阪神支店 所長。一級建築士として300件超の間取り作成に携わってきた、空間の魔術師。美術・工芸・建築が大好きで、機能的でありながら心も満たしてくれる「用の美」を見て目を肥やすのが至福の時間。

その土地その土地に、理想の間取りがある

複数提案はしない。最高のものを一つ提案

仕事におけるこだわりをお聞かせください

私の仕事は簡単に言えば、木の家づくりにおける設計や施工を通じて、施主とそのご家族にとって「理想の暮らしの空間」を実現すること。

この仕事において「家が土地に合っているかどうか」という点を特に大切にしています。その土地特有の風の流れや光の入り方などがあるので、それらを踏まえた上で、ご家族がどういった暮らしをしていくのかをイメージするためにも、可能な限り土地探しからご一緒させていただくようにしています。設計の前には必ず敷地で、その特徴をしっかりと把握することが不可欠です。

設計の中でも最初に行うのが間取り作成。間取りは土地に合った家づくりで一番重要だと考えているので、徹底的に時間をかけます。そして最高のものを捻り出し、ベストプランを1つだけ提案することに決めています。決して複数案を出すことはありません。

施主のこだわりを徹底的に引き出し、土地の魅力に掛け合わせる

間取り作成の中でも一番時間をかけるのはヒアリングです。KJ WORKSのノウハウのかたまりでもある「家づくりノート」には、多岐にわたる質問事項が書かれています。これを基にヒアリングを行い、お客様の実状や要望を整理することで、お客様の暮らしを分析していきます。

あらかじめノートに記入いただいて、それを熟読してからヒアリングに臨むのですが、ノートを渡してただ書いてもらうだけではきれいにまとめられた答えしか出てこず、お客様の内なる声は浮き彫りにはできません。たとえば、夫婦それぞれに思うところを書いてもらうようにして、お二人の意見はあえてまとめないでください、とお伝えすることで、ヒアリングでは深いところまで引き出せるようになります。多くの場合、夫婦で大切にしたいことは違いますからね。

ヒアリングを進めていくと、相反するこだわりや、こだわりと予算との兼ね合いなど、あっちを立てればこっちが立たないといった問題が生じることは多々あります。そんなときこそ私の経験が活きるときで、専門家だからこそできる解決法を間取りに盛り込み、土地の魅力も活かせるような提案を心がけています。

間取りが軽んじられる風潮にメスを入れたい

違和感を持ちながらも建ててしまう人が大半

間取り作成で印象的だったエピソードを教えてください

ある大手ハウスメーカーの施工が指定された建築条件付き土地を購入した方から、間取りの相談を受けたことがありました。その方は、その土地自体はとても気に入っていたのですが、大手ハウスメーカーが出してくる間取りには納得できず、多くの方がそうであるように、「ここをこうして欲しい」と間取りに具体的に意見できる知識もアイデアもないために困っていたのです。

ちょうどそのとき縁あって、その方から「間取りだけでもつくってくれないか?」と相談を受け、間取りのスケッチを描いてアドバイスさせていただきました。そして施主の方は、私がつくった間取りを基に、ハウスメーカーに対してご家族の意見を具体的に伝えることができ、満足のいく家が建てられた、というお話です。

このケースのように、家を建てたいと思っている方の大半は、間取りに違和感を持ちながらも、具体的に意見できる知識もアイデアもないために、そのまま家を建ててしまっているというのが現状です。大きな買い物なのにもったいないですし、それではせっかくの注文住宅が注文住宅ではなくなってしまいます。これが「間取りアドバイザー」というものの必要性や価値を実感した瞬間でした。

セカンドオピニオンとしての「間取りアドバイザー」

山口さんにとって「間取り」とは何ですか?

理想の暮らしを手に入れるための第一歩ではないでしょうか。家づくりにおいて最も根本の意思決定であり、この根本をなおざりにしては「理想の暮らしの空間」は実現できない、私はそんなふうに考えています。

しかし、そんな大切なことなのに、家のつくり手から提示された間取りに納得・満足できないことも少なくはありません。私には17年間で300軒以上もの間取り作成に関わってきた経験とノウハウがあるので、間取りのセカンドオピニオンとして活用いただけないか、と模索しています。

こうした「間取りアドバイザー業務」というものを広めていくことが今の私の最重要事項で、まずできることとして、ホームページに「間取りギャラリー」を開設しました。ここでは、私が過去にさまざまなご家族と向き合ってつくってきた間取りの一部を掲載し、これから家を建てようと考えている方にとって、少しでもお役に立てればと考えています。

もっと深く長くお付き合いできる体制へ

建ててからが長いのが家。「家守り」として寄り添う

家は住み始めてからが長く、とても大切なので、完成後も愛着をもって長く住み続けてもらうための「家守り」にも力を入れています。いわゆる引き渡し後1年、2年での点検や日常におけるアフターケアのことなのですが、その「家守り」を徹底するためには、できるだけお客様の近くにいてスピーディに駆けつけることが重要だと考えています。会社として家づくりに関わった阪神地区のお客様が50軒以上になったのを機に、阪神支店を出すことに決め、芦屋にやってきました。

施工まで担当してこその好循環

今後はどのような展望をお考えですか?

芦屋に来て3年目。現在は、阪神支店としては主に設計業務を担っているだけですが、これから3年ぐらいかけて、設計だけでなく施工まで担当できるよう、しっかりと私の想いを理解して施工面で動いてもらえるパートナーを探していきたいと考えています。

設計だけでなく施工まで担当するからこそPDCAがまわり、ノウハウがたまって質もより向上していくので好循環になります。現状は本店との連携部分も多く、もっと阪神支店単独でスピーディーに担えるようになりたいです。

そして、施工を任せられる人材だけでなく、次の10年を見据えると次世代の育成も課題。間取りはまだまだ認知も浅いので、まずは間取りの重要性や「間取りアドバイザー業務」の存在自体を知ってもらうための活動に注力し、何より木の家の良さを知ってもらうための活動を続けていきたいと考えています。

編集後記

山口さんの事務所は木でリフォームされているので、木のぬくもりや香りが常に感じられる素敵な空間です。私はまだ家の購入を具体的に検討したことはないのですが、ここに来るたびに、木を使った注文住宅やリノベーションへの欲求がふつふつと湧いてくるから不思議ですよね。こんな空間で、挽きたて淹れたてのコーヒーを楽しむのはとても贅沢な時間だなぁと想像が膨らむばかり。今度は、私のコーヒーセット持参でお邪魔したいです。(きゅう)

参考サイト:KJ WORKS阪神支店