2016.10.27

枠にとらわれないコーヒー人を目指して


芦屋市茶屋之町で「野菜や果物と同じようにCOFFEE売ってます」という看板を掲げ、自家焙煎のコーヒー豆を販売する八木さん。コーヒーの魅力や、八木さんのコーヒーにかける想い、そして今後の展望について聞いてきました。

八木俊匡さん
株式会社アルタレーナ代表取締役バリスタ兼、スペシャルティコーヒーロースター「TORREFAZIONE RIO」の店主。プロデューサーとしての顔も持ち、コーヒーというフィールドを縦横無尽に駆け巡るオールラウンドプレーヤー。

今も根底に流れる想いを育んだイタリアンバール時代

きっかけはエスプレッソへの憧れ

コーヒー業界に携わるようになったきっかけを教えてください

実家が喫茶店を経営していたので、子どもの頃からコーヒーのある生活が当たり前でした。ドリップやサイフォンなどの器具に触れてはいたのですが、エスプレッソに触れる機会はなく、エスプレッソへの憧れからイタリアンバールで働くようになったのが、私のバリスタとしてのキャリアのスタートです。

バリスタとして働きだしてから数ヶ月経ったあるころ、「コーヒー業界って不思議だな」と思うような出来事がありました。

エスプレッソで有名なバールでしたので、カフェ関係者が定期的に研修に来ていました。入社数ヶ月の私が、抽出やラテアートをレクチャーすることになったのですが、対象は自分よりも長くコーヒー業界に携わっている人たちばかり。「こんな若造が担当していいんだろうか…」と思ったものの、当時はエスプレッソを提供する人にとってノウハウが圧倒的に足りていなかったので、これが当たり前の状況。だからこそ、美味しいコーヒーを広めていくためには抽出技術の普及は必須だと確信し、いつしか「そのためのビジネスを自分で立ち上げたい!」と思うようになっていきました。

原動力は「美味しいコーヒーを広めたい」という想い

しかし、「店舗スタッフの人材育成」だけでビジネスになるとは思えなかったので、コーヒー豆の輸入・卸売業を主軸で営みながら、卸先の店舗には技術的なサポートを徹底していこうと考えていました。当時のアイデアは、基本的には今も変わらず根底にあります。

そして、ある程度バリスタとしての経験を積んだ後にお店を辞め、エスプレッソに合う美味しい焙煎豆を求めてイタリアに出発。理想的なビジネスパートナーとの出会いは、いきなりやってきました。何件もアポ取りをして臨んだイタリア出張でしたが、1件目で私が考える理想の焙煎豆に出会えたのです。商談を終え、帰国後に契約の詳細を詰めて、無事、契約締結。イタリアから焙煎豆の仕入れが決まり、晴れて芦屋にイタリアンバールを開店することになりました。

独立前に思い描いていたように、飲食店に豆を卸しながら、バリスタの育成、技術サポートも行う事業は順調に成長していきました。しかし、軌道に乗ってはいたものの、「美味しいコーヒー」をなかなか広められないことへの葛藤も生まれるようになっていたのです。

役割を変えながらも常に「美味しいコーヒー」を追求

バリスタからロースターへの転身

どのような点で苦労されたのですか?

一番苦労したのは豆の品質管理です。イタリアで焙煎した豆を輸入していたので今思えば当たり前のことですが、ビジネスが大きくなって仕入れるロットが増えれば増えるほど、さばききれずに酸化して劣化してしまうケースが多くなりました。

90点の豆を90点で抽出する技術はありますが、いくらがんばっても、60点の豆を90点で抽出することはできません。こういった背景もあり、このタイミングで、生豆を仕入れて自家焙煎することを決断しました。

しかし、いざ生豆を仕入れることになると生豆の奥深さに直面しました。ロースターとして試行錯誤の始まりです。このとき初めて、コーヒーも農産物であり、そこには生産者がいること、そして、その生産者や農園によって品質に大きな差が生じることを肌で実感しました。

生産者とお客様をつなぐ、橋渡し的存在に

この頃から「野菜や果物と同じようにCOFFEE売ってます」というキャッチコピーを使い始め、生産者とお客様の橋渡しとしての役割を大切に、コーヒーを食す楽しみを多くの方にお届けしたいと考えるようになりました。

一方で、当時は「美味しいコーヒー」にこだわる人はまだまだ少なく、そのために提供する側から消費者に積極的に歩み寄っていく必要があると感じました。「美味しいコーヒーを簡単に口にできる機会をいかにつくるか」がはじめの一歩でした。

そこを起点に、ドリップパックの通販やお好みの焙煎豆を簡単に定期購買できるサービスを新たにリリースしたのですが、いまだに「美味しいコーヒー」を広められていないなと反省しています。飲み手が思う「美味しい」が常に正解なのですが、その「美味しい」が人によって異なり、それが目に見えないものなので、美味しさをいかに数値化、可視化するかが目下の課題だと捉え、次の一手を検討しているところです。

自身の活動領域を広げるための体制づくり

今後の展望について教えてください

一言で言えば、コーヒーを軸に「世界をぷらぷら」できるようになりたいと考えています。

良いコーヒーとの出会いの接点をもっと増やしたいと常に考えているのですが、バリスタ兼ロースターとして常にお店に立っていては、できることが限られてしまいます。少なくともここ数年は、コーヒー農園の開拓や新しいアイデアの発想のために、豆の生産地やコーヒー消費国に出向くことはほとんどありませんでした。これでは自分自身が成長できず、ビジョンを達成できないと危機感を覚えています。

ですから、自分のアンテナを広げたり、人との出会いを増やしていくためにも、現場を離れて海外を見て回れるような体制をつくっていきたいです。たとえば、信頼できるパートナーを見つけたり、後身育成に取り組んだりしていく、ということですね。そして、バリスタやロースターとして活動したり、生産者とお客様をつなぐ橋渡し的なプロデューサーとしての役割を担ったりもしながら、自分が理想だと考える仕組みをデザインし、それを完遂するのが、私が考えるこの10年の展望です。

編集後記

実は、私は何度か「TORREFAZIONE RIO」でコーヒー豆を購入したことがあり、苦いだけでなくちゃんとした酸のあるコーヒーが好きな私にとっては、好みの豆を購入できるお店の一つでした。今回お話を伺って、そんなお店のバリスタやロースターとしてではない八木さんの一面を知ることができ、自分が担える領域を広げながらでもビジョンに向かって突き進んでいくんだ、という八木さんの強い意志も感じられました。2017年から「世界をぷらぷら」を実践されていくそうなので、今後の展開がとても楽しみです。(きゅう)

参考サイト:TORREFAZIONE RIO