2016.10.29

出向き、出会い、拡がる寿司体験


出張寿司というユニークな業態で活動される須澤さん。現在の形態に至った理由や、大切にされているキーワード、今後の展望についてお話をお聞きしました。

須澤宏光さん
出張寿司職人。個人宅への出張や飲食店とのコラボレーションなど、芦屋を中心に京阪神エリアで活動。趣味の野球観戦とバンド活動にも精力的。

至るべくして至った出張形態

父の店と寿司との出会い

はじめから寿司屋を志されていたのですか?

昔から寿司屋を志していたわけではありません。大学を卒業して最初の就職は某大手飲食店チェーンでした。激務で有名な会社でしたが、私自身も疲れてしまい、退職を決意します。とはいえ、当時既に婚約していたため、無職でふらふらと過ごすわけにもいきません。転職活動を行いましたが、最終的にたどり着いたのが父が大阪梅田で経営していた寿司屋を手伝うことでした。10年、そこで寿司職人としての経験を積むことになります。

きっかけは友人宅での余興

出張形態を意識しはじめたのはいつ頃からですか?

父の店を手伝っていた時期、ちょうどインターネットの普及により、昔ながらのやり方を続けていくだけでは店を継続していくのが困難になっていました。私自身、かなりの危機感を持っていたので、あらゆる本を読みあさり、あーでもないこーでもないと店の未来について考えていたんです。そのアイデアの一つとして、出張寿司は需要がありそうだと感じていました。

そんなある日、友人宅のホームパーティーの出し物として寿司を握ったことがあるんです。その時はとても盛り上がり、参加者全員に非常に楽しんでもらえました。これはいけると思って父に出張寿司を提案しましたが、「出張している間、誰が店をやるんだ」と一刀両断されたのを覚えています。これだけが原因ではないのですが、店の運営方針で父と衝突することは多く、10年という区切りで父の店から離れることを決意しました。

独立と試行錯誤の日々

ご縁から動き始める出張寿司

出張寿司の需要は実感していましたが、最終的に出張寿司をやることになったのには、現実的な理由もありました。店をやるとなると初期投資が大きくかさみます。当時はそこまでの勢いもなく、少ない元手ではじめて、もしダメだったら辞めよう、ぐらいの気持ちではじめました。必然的に出張寿司にならざるを得なかったとも言えます。

最初の仕事は昔からお付き合いのあったお店での出張寿司イベントでした。そこから知人や紹介、最近ではFacebookを中心としたインターネットでの発信を通じて、ご依頼を頂戴しています。ご依頼の内訳としては、個人宅への出張、飲食店への出張、あとはイベント会場での屋台出店などです。

個人宅への出張の場合、キッチンをお借りする都合、出張寿司ならではの難しさもあります。そういった課題を解決するための試行錯誤が独立当初は続きましたが、今ではいくつもの対応策が自分の中に蓄積され、柔軟に対応できるようになってきました。

少しずつではありますが、紹介が紹介を呼び、今ではたくさんのご依頼を頂戴するようになりました。出張寿司というのは、「家まで来てもらえる」という時点でものすごく喜んでいただけます。加えて、おいしいお寿司を提供する出張寿司としてはリーズナブルな値段なのも人気の理由かもしれません。

何を出すか、より、どう出すか

出張寿司というサービスを提供する上で、大切にされていることはありますか?

寿司の味には自信がありますが、おいしいのは当然だと思っています。むしろ、王道をおさえつつも新しい何かを提案していく、そうしたプチサプライズを仕込めるかは意識していますね。寿司の説明や、トーク、立ち居振る舞いなど、その場の雰囲気や求められている役回りにあわせて臨機応変に対応できるかも大切です。

コンビニや回転寿司を筆頭に、寿司自体は貴重なものでもなく、いつでも食べられるものになってしまいました。そんな中で満足し、リピートしていただくためにも、「何を出すか、より、どう出すか」が大切だと日々実感しています。同時に、出張寿司という場を提供する私という人間が売り物であり、常に厳しく見られているという気持ちでやっています。

ニッチ・深掘り・Only one

出張寿司をもっと深掘りしたい

今後の展望を聞かせてください

昔から大切にしていて、今でははっきりと自分のキーワードにしている言葉に「ニッチ・深掘り・Only one」があります。より狭い領域で、より深く、そしてユニークな存在になれるかどうかは、今後も突き詰めていきたいです。出張寿司という形態は世界的に見てもユニークで需要はあると思うので、海外、例えばニューヨークでの出張寿司、といったご依頼にも短期ステイで挑戦してみたいですね。もちろん、芦屋の地に住み続けるつもりなので、ベースは今のエリアであることを変えるつもりはありません。

かつて在籍していた某大手飲食店チェーンはまさにチェーンストアの典型例でした。チェーンストアが不振に陥り、個性的でユニークなお店が流行る今の世の中のトレンドを見て、改めて「ニッチ・深掘り・Only one」が重要だと感じています。出張寿司をはじめた当初は、「事業が安定してきたら店を構えよう」と考えていました。ですが今では、店を出すことで自分の強みがぼやけてしまいかねないので、出張形態に特化し、極めるのが良いのではないかと考えています。

オンもオフも含めた大きな好循環を

出張寿司が自分に向いているなと感じることの一つに、休みたい日をコントロールしやすい、というものがあります。働きづめでは燃え尽きてしまいますし、仕事ばかりで新しい刺激がなければ、創造性も無くなってしまいます。休みまくれば良いという話ではもちろんないですが、時間の余裕が結果として新メニューや新サービスの開発につながり、お客様の満足度向上にもつながっていくのだと思います。これからもオンとオフが大きな輪を描き循環する状態を保ちながら、より多くの方々に、出張寿司体験をお届けしていきたいですね。

編集後記

冷静にご自身の過去や出張寿司というビジネスモデルを語られる姿に、須澤さんだからこそ出張寿司というサービスが成立し、ここまでやってこれたのだなと強く感じました。おいしい寿司を提供するにとどまらない、場作りにかけるこだわりや、出張形態だからこその自由度で、さらにおいしく、おもしろい展開を期待せずにはいられません。(あだつ)

参考サイト:出張鮨 須澤Facebookページ