2016.11.11

身近にある幸せをあきらめない


芦屋を中心にシェアハウス事業を展開する牛飼さん。シェアハウスに至った理由やそのこだわり、今後の展望についてお話をお聞きしました。

牛飼勇太さん
tanomo株式会社代表取締役。有機野菜付きシェアハウス運営や援農を手がける。筆一本で世界を旅した書道家の顔も持つ。

学びに溢れるシェアハウス

すべてのはじまりは六甲山

シェアハウス事業は最初から考えられていたのですか?

シェアハウスという形態自体は六甲山上の家からはじまったのですが、最初からシェアハウスにしようと考えていたわけではありませんでした。自分だけが住むつもりだったのが、一緒に住む人が増え、いつのまにかシェアハウスになっていたというのが実際のところです。

シェアハウスをはじめてからは学ぶことだらけでした。集団生活ならではの喜び、苦労、その両方が自分にとっては素晴らしい経験でしたし、日々発生する課題を解決していくなかで生まれる関わり合いや、その結果育まれる住人同士の関係性にとても感動したんです。奇しくも世の中は人口減少による空き家問題が顕在化してきていました。社会問題の解決と、より多くの人にシェアハウスならではの体験を提供したいと思い、芦屋市山手町にシェアハウスを開設したのが、本格的なシェアハウス事業のスタートです。

関係性ができるまで徹底的に向き合う

シェアハウスは集団生活のため、掃除の分担をはじめとした様々なルールが必要です。いくつかシェアハウスを運営していますが、画一的なルールは採用していません。いわばシェアハウスごとに独自のルールがある状態です。事業としての効率性だけを考えれば、統一ルールを決めて入居してもらった方が良いのかもしれませんが、それではかつて私自身が経験したようなシェアハウスならではの体験ができません。

何か一つルールを決めるにしても、自分と違う考えの人とぶつかり、意見し合うなかでしか経験できないことがあります。そして同じ方向を向いて議論していくなかで関わり合いが生まれ、シェアハウスだからこその関係性ができあがっていくのだと思います。新しいシェアハウスを立ち上げる際は、私自身も一定期間住み込むようにし、住人たちのそういった議論ができるだけ建設的に、前向きになるようにサポートしています。

食も重要。安心安全なものにこだわる

シェアハウスでもう一つこだわっているのが「有機野菜付き」であることです。食べることは日々の暮らしのなかで大きな割合を占めるので、その食で手を抜くわけにはいきません。安心安全のこだわり野菜が家賃に含まれています。

現物支給にしているのにも理由があります。「今からおいしい野菜を買いに行こう!」となると「あれがいい」「これは嫌」と、なかなか方向性が揃いません。ですが、はじめから材料が与えられると「どう活用するか」にみんなの意識が集中するので、より意味のあるコミュニケーションが生まれることが多いのです。

良き親になりたい

前向きに考え、自分に何ができるかを追求する

シェアハウスを運営する上でのこだわりはどのようにして生まれたのですか?

シェアハウスをはじめる前の美容師時代に、父をがんで亡くしました。三人兄弟の長男だった私は、父との最後のやりとりで「親父の代わりにして欲しいことはあるか」と尋ねたんです。返ってきた答えは「代わりに何ができるかを考えながら生きていって欲しい」というものでした。前向きに生きること、そして当事者として自分に何ができるかを考え続けるということを最後まで教えてもらった気がしています。

今振り返ると、自分はとても恵まれた家庭環境で育ってきたなと思います。将来、自分の子供にも不本意なNoを言いたくない、いろいろなことを経験し、感じ、成長していって欲しいと強く感じています。今までの人生も、良き親になり、良き家族を作るために何を準備すべきかを模索し、挑戦し続けてきたと言えるかもしれません。

「いちいち」経験することの大切さ

この気持ちはシェアハウスの住人に対しても同じです。彼、彼女たちにも、将来良き親になり、良き家族を作り幸せな暮らしを実現して欲しい。そのためにも「いちいち」、「わざわざ」、いろいろな経験をしてもらいたいと考えています。ルール決めの過程や集団生活でのトラブル解消、日々のコミュニケーションや関係性作りにいたるまで、どれも将来役立つ経験ばかりです。離婚が珍しい話でなくなってしまった今の時代、いわば家族を持ったときの予行演習をやってもらっているイメージです。

一つ屋根の下で一緒に暮らすと、その人の本当の姿が見えてきます。どのような家庭環境で育ってきたかが透けて見える人もいます。当初は大丈夫かな、と思った人も、想像もしなかった変化を遂げることは珍しくないので、入居審査はあまり厳しくしていません。シェアハウスやおいしい野菜が様々な関わり合いを生み、そのなかでその人なりの変化や成長を遂げていってもらえれば嬉しいですね。

自分の器も事業も拡げたい

シェアハウスを軸とした様々な未来

今後の展望について教えてください

おかげさまで、シェアハウスに関していろいろなお声がけをいただくようになりました。有機野菜付きというコンセプトでシェアハウスの数を増やしていくのが当面の目標です。管理するシェアハウスが増えることで、シェアハウス間での移動や連携が行いやすくなりどんどんと好循環になっていきます。まずはそこを目指したいです。また、運営受託やシェアハウスに関するコンサルティング、仲介等、周辺事業に対しても柔軟に取り組みたいですね。

他にも、介護付きシェアハウスのようなアイデアもあります。こういったもの以外にもシェアハウスにはいろいろな可能性があります。やりたいことが多すぎて拡がりすぎることもあるのですが、精査をしながらしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

引き算したときが楽しみ

昔、著名な方の講演で「引き算することが生み出す引力」のような話を聞いたことがあります。自分という器の中で、空いた隙間には他の何かが入ってくるというイメージですが、今の時期は自分の器を一所懸命に拡げようとがんばっている時期かもしれません。日々学ぶことばかりですし、自分の成長につながっているのを感じています。まずはシェアハウス事業を魅力的な事業に育てて、丸ごと引き継ぐというのが大きな目標です。

最終的には、筆一本で稼ぐ生活に戻りたいと考えています。かつて路上で筆文字を書きながら世界を回ったことがあるんですが、その時に感じたのは書の美しさ以上に「人間力」が大事だということ。将来、一回りも二回りも大きくなった自分が筆一本でどのような価値を創造できるのか、また、筆以外のものを全部引き算したときにそこに何が入ってくるのか、もちろんその時にならないと分からない話ですが、今から楽しみですね。

編集後記

シェアハウス運営のこだわりの中に、牛飼さんの人生哲学が強く根付いているのを感じた今回の取材。取材終了後に見せていただいたシェアハウス屋上からの景色はまさに絶景でした。今は自分育て、住人育てがメインですが、将来、ご自身の本当の子育てがはじまったときに、どういったお話が聞けるのか楽しみです。(あだつ)