2016.12.17

絶句するようなマイスタイルを


芦屋市山手町にあるアトリエを拠点に、画家として活動しているAhhiさん。画家として活動を始めたきっかけや普段大切にしていること、今後の展望について聞いてきました。

Ahhi Choiさん
AHHI ART STUDIO代表。画家。絵を描くことを軸にしながらも、枠にとらわれない制作活動を追求中。スケートボードはプロ級の腕前。

tanomo牛飼さんのご紹介

メモ書きからはじまった画家への道

ニューヨークがくれたインスピレーション

画家として活動を始めたきっかけを教えてください

画家として活動する前の話ですが、絵を描くことに目覚めたのは今から7年前の26歳の頃です。その頃、3年ほどロサンゼルスに住んでいたのですが、日本に帰国する直前の2週間、アメリカ最後の旅先としてニューヨークにいる友人を訪ねました。そのときが人生で初めてのニューヨークでした。「ニューヨークはすごい楽しいところ」ぐらいの漠然としたイメージはあったのですが、都会よりも国立公園などの自然に強く興味を持っていたこともあり、どことなく避けていたんですね。

実際に訪れてみると、それまで生活していたロサンゼルスとはかなり違って開放感が少なく、人混みや地下鉄が苦手な僕は違和感というか、正直、居心地の悪さを感じました。その後その感覚も大きく変わりはしましたが、ロサンゼルスに戻ってからはニューヨークで抱いた感情を何かしらの形で表現しようと思い、手元にあったメモ用紙とシャーペンで、自分が見たまま、感じたままのニューヨークを描いてみたんです。絵を描くことは小さい頃にやったことがあるはずなのに、20代後半になって改めて描いてみると、なぜかとても新鮮だったのを覚えています。

学校の授業以外、絵を描くこととは無縁の生活を過ごしていましたが、このときを境によく絵を描くようになりました。「うまく描けて楽しい!」の連続で、ただただ描き続け、絵を描くことを純粋に楽しんでいたように思います。もちろん、その頃は画家になろうという気持ちなんてありませんでした。

どん底が生んだ変化

帰国してからは銀行に就職し、生活スタイルが一変。枠やルールに則って行動することが求められるようになり、これまでのような「自分」でいることは難しくなりました。時間も心の余裕もなくなり、次第に絵も描けなくなっていったんです。そのような環境ながらも、負けず嫌いな性格から自分なりに必死にがんばり続けていたのですが、肉体的にも精神的にもかなり無理をしていたようで、体調を崩してしまいました。焦りが空回りを生み、体調はどんどん悪くなり、最終的に銀行を退行します。

その後、体調回復に努めていたある日、ある雑誌の仏像特集に感化され、奈良の大仏を見に行ったことがありました。それまでは絵を描きたい気持ちが起こることはなかったんですが、そのときはなぜか描きたいと思い、スケッチブック片手に向かったことを覚えています。そして、お堂に入った瞬間にインスピレーションが湧き、ペンを走らせました。しかし、そのときの対象は大仏ではなく、お堂の中に満ちた雰囲気、大仏を取り巻く空気感という抽象的なものだったんです。

僕にとって、絵を描くためのインスピレーションはとても重要なんだと気づかされました。「絵を描きたい」とか「絵を描こう」と思っても、なかなか描けません。もちろん、人に依頼されて描けるものでもありません。自分自身の心の奥底からふと湧き上がってくるインスピレーションこそが制作活動の源泉なんですね。この日のインスピレーションをきっかけに、また絵を描くようになり、今のような抽象的な作風が生まれ、画家として活動するようになりました。

フリースタイルから生まれ出たマイスタイル

すべての出発点は好奇心

インスピレーションを得るために、どのようなことを意識していますか?

好奇心を持って、いろんなことをやってみたり、いろんな人に会ってみたりすることが重要だと考えています。それで得られた刺激はすぐに役に立たないこともあるだろうけど、いつか何かにつながるときがやってくると思っているからです。

また、自分がやりたいことをとことん追求することも大切にしています。これはもう生まれ持った性格なのかもしれませんが、小さい頃から「これをやる」と自分で決めたら最後まで徹底的にやりきってきました。自分がやりたいからやる。たとえ絵を描くことに直接関係のないことでも、いろんな角度から影響や刺激が得られるので、とにかく興味を持ったら、一生懸命、本気でやり続けることが多いです。そうすれば、一見、制作活動に関係がなさそうに見えても、制作活動に多くの影響を及ぼしてくれますからね。人生に無駄なことは何もない。すべて好奇心から始まるんです。

スケーターと画家に見られる共通点

どのように制作活動をされているのか教えてください

インスピレーションが湧いてくることが重要ですが、インスピレーションが湧いたら、何も考えずに線を描き始めます。だいたいの完成形をイメージしていることもありますが、基本的にはどんなものができあがるのか自分でも分からず、一筆一筆の偶発的な重なりを自分自身が楽しみながら描いていくスタイルです。

僕は小学4年生から10年ほどスケートボードに夢中になっていた時期があります。当時は今のようにスケートパークがある時代ではなく、いつも街中でやっていました。街中にある階段や手すりを障害物に見立てて、各々が想像力を働かせて技を繰り出すフリースタイルです。まさにそのスケートボードのようなフリースタイルで絵を描いています。

そういう意味では、僕の制作活動のルーツはスケートボードにあるのかもしれません。最低限の決まりはあるものの、しっかりとしたルールもなければ、こうしなければいけないという型もありません。正解はなく、やっていくうちにコツをつかみ、その継続、積み重ねで形成されていく自分だけのスタイル。僕にとってのスケートボードも制作活動も、興味を持って本気でやり続けた結果、形になっていったものであって、独自のスタイルを作ろうと思って今のスタイルになったわけではありません。好奇心から一歩を踏み出し、本気でやり続けた先に得られるもの。それが誰にも真似できない自分だけのスタイルなんです。

スケートボードのように人生を活きる

未来は今の積み重ねでしかない

今後の展望について教えてください

正直、5年とか10年先のことはあまり考えないようにしています。

これまでの人生もそうですが、「どうなりたい」「こうなりたい」とあったわけではなく、目の前のことをとことん突き詰めて見えてきた道を歩んできましたし、その過程での新しい発見に喜びを感じてきました。だから、将来という遠いところを見すぎて今を疎かにしたくないので、とにかく今自分にできることを一つ一つ固めながら積み上げ、マイスタイルを築いていきたいと考えています。

無駄だと思うことにこそ潜む本質

また、仕事で海外に行くことも多く、大人になるにつれて旅が楽しいと思うようになりました。昔は面倒くささが勝ってそうでもなかっただけに、自分でも驚きです。今まで見たことのない世界に触れると刺激がたくさん得られるので、もっといろんな場所に行ってみたいですね。無駄だと思うことにこそ本質があると思っています。だから、仕事と関係なくてもいいので、国内外問わず、いろんな場所に行って自分の感性をもっと磨きたいと思っています。

編集後記

インタビュー中、特に印象に残っているのが「絵を描いているから画家なのではなく、絵を描くことを生業にしてこそプロの画家なんだ。そういったプロ意識を持ち続けていたい」といったお話です。これを聞いて、Ahhiさんが築き上げてきた「マイスタイル」の礎の強さを垣間見た気がします。今この瞬間も面白い企画を仕掛け中のようなので、これからの制作活動がとても楽しみです。(きゅう)

参考サイト:AHHI ART STUDIO